2015年3月28日土曜日

自作数学問題

高校数学の範囲でエージェントベースシミュレーション(ABS)の解析解が出せるということに感動したので、その一つであるMDRAG(market-directed resource allocation game)の相転移の解析解の導出を、数学の問題形式にしてまとめてみました。本質的アイデアを損なわずに適度に近似して、複雑な現象の一端を簡単に理解出来るということは素晴らしいです。ABSを解析的に解くとはどういうことか、物理や工学での数学の実践的姿はどんなのか、大学の勉強はどんな感じなのか、そういうことに興味がある人に良いのかなあと思います。東大の後期試験に類似した形式なので、受験生にも良いかもしれません。
(別紙参照の筈の)MDRAGの詳しい説明はまだ書いてませんし、問題文も適切かは分かりませんので、訂正案があればどうぞ連絡を。MDRAGは後述の参考文献に詳しいです。

MDRAG(market-directed resource allocation game、別紙参照)とは、人間(エージェント)の選好の多様性の有無が市場が均衡に到達する為の必要条件であることを検証する為に作られたABM(agent-based model)である。これのシミュレーション結果を検証する為、MDRAGを簡略化したモデルを解析的に解く。その過程を表した以下の問に全て答えよ。

(1)ステップtRoom1が勝つ確率をα(t)とした時、その回での選好Lの戦略(戦略L)の得点変化f(L, t)の期待値を求めよ。但し、戦略Lを「確率L/PRoom11-L/PRoom2を選ぶ戦略」と見做してよい。尚、戦略は勝ったRoomを正しく予想した場合、1の得点が与えられるとする。

(2)ステップ1からTまでの得点変化の総和を取ることにより、ステップTでの戦略Lの得点F(L,T)を求めよ。

(3) Room1,2に配置される資源の量をそれぞれM1,M2(M1>M2、一定)とする。M1>M2よりα(t)>0.5と仮定する。その際、各エージェントは自分の持っている戦略のうち、どれを採用することになるか。Tは十分に大きいとして、F(L,T)Lで微分し、簡単に説明せよ。尚、F(L,T)は戦略Lの実績を表しており、これが最大の戦略をエージェントは選択し行動するものとする。

(4)あるエージェントが選好L’を選択する確率p(L’)を求めよ。但し、エージェントが持っている戦略の個数はSであり、各戦略の選好L0~Pの整数の中から等確率に与えられるとする。

(5)Room1を選択するエージェント数の平均R1を求めよ。但し、エージェントの総数はNである。

(6)効率的な配分はRoom1を選ぶエージェント数がN’=N*M1/(M1+M2)のときである。このとき、R1>N’であればこの配分は達成可能で、R1<N’であれば不可能である。その理由を説明せよ。その際、ここまでの計算で用いた仮定の一つを外すとよい。

(7)MDRAGでは効率的資源分配が可能なパラメータ範囲とそうでないものがあり、前者を均衡相、後者を不均衡相と呼ぼう。液体と気体のように、物理学ではこのような相の間の関係性に興味がある。ところで、このような相と相の境目となっている点を何と言うか、答えよ。

参考文献
Ji-Ping Huang: Experimental Econophysics. Springer, Berlin (2014)